
各自治体が取り組む誹謗中傷対策の現状。自治体は誹謗中傷対策にどう取り組んでくれるのか?
近年増え続ける誹謗中傷やデマを踏まえて、各自治体が対策に取り組む動きが広がっています。
これまでは法務省人権擁護局の「インターネット人権相談受付窓口」や一般社団法人セーファーインターネット協会の「誹謗中傷ホットライン」などが相談対応やSNS事業者への削除依頼などを担ってきましたが、各自治体が条例などで誹謗中傷対策の方針を定めたことによって、各自治体でも相談対応やSNS事業者への削除依頼が可能になってきました。
そこで、今回は各自治体が取り組む誹謗中傷・デマ対策について説明します。

動きの先駆けと現在の広がり
誹謗中傷対策の先駆けは群馬県でした。2020年に全国で初めて「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」を施行しました。専門の相談窓口を設け、数年間で1000件近い相談を受けるなど、一定のセーフティネットとして機能しています。
その後、さまざまな自治体が後に続き、現在は20以上の自治体が誹謗中傷やデマに関する対策を実施しています。

群馬県
2020年に施行された「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」では、群馬県として誹謗中傷の相談窓口を設けることや、ネットリテラシーの向上に向けた取り組みを行うことなどが定められています。
群馬県の誹謗中傷相談窓口は以下の通りです。
- インターネット上の誹謗中傷相談窓口
削除対応などをしてもらえるわけではなく、あくまでも相談に対応してくれる窓口です。ケースに応じて弁護士への相談を促したり、心のケアのために臨床心理士の方を紹介してくれます。
誹謗中傷の当事者で、県内在住又は在学・在勤の人及びその保護者等であれば相談が可能です。
大阪府
「大阪府インターネット上の誹謗中傷や差別等の人権侵害のない社会づくり条例」は2022年に施行されましたが、2023年に改正され、さらに内容が強化されました。改正後の条例では、大阪府としてケースに応じて削除要請等を行うことが明記されています。
- 大阪府インターネット誹謗中傷・トラブル相談窓口ネットハーモニー
大阪府内に在住、在勤、在学されている方やその親族の方等であれば、どなたでも相談することができる相談窓口です。臨床心理士などの専門家を紹介するような取り組みも行っており、HP上に相談の対応状況に関するレポートも掲載されています。
愛知県
「愛知県人権尊重の社会づくり条例」では、人権相談窓口の設置などが定められています。愛知県は受託業者による技術的相談を介して、サイト管理者やプロバイダーに削除依頼をできるようにしています。
- 愛知県インターネット上の誹謗中傷等WEB相談窓口
- 人権に関わる一般相談
削除要請などの相談窓口と一般的な人権相談窓口が分かれています。技術的な要請を行う場合にはWEB相談窓口を選び、臨床心理士の紹介などを受けたい場合には一般相談窓口を選ぶとよいでしょう。
三重県
「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」では、人権問題に関する相談に応じることが県の責務とされており、実際に相談窓口が設置されています。
- 三重県人権センター
インターネット上の誹謗中傷等も人権侵害行為として相談することができます。相談でも解決できないような問題については、条例に基づいて県の人権課に申立書を送ることで解決を図ることできます。ただし、この窓口はあくまでも当事者同士の解決を前提としているため、サイト管理者やプロバイダーへの削除要請等をしてくれるわけではありません。
兵庫県
「インターネット上の誹謗中傷、差別等による人権侵害の防止に関する条例」が新たに制定されています。最大の特徴は、事業者が被害者からの削除要請に応じない場合、被害者に代わって県(知事)がプロバイダー等に対して削除要請を行うことができるという、一歩踏み込んだ規定が盛り込まれている点です。
- インターネット上の誹謗中傷や差別等に関する相談窓口
兵庫県人権啓発協会に委託して運営されており、弁護士と専門職員による「サポートチーム」が対応してくれます。プロバイダー等への削除依頼に関する技術的なアドバイスや、法的手続きの紹介など、具体的な解決に向けた支援を受けられます。
佐賀県
「全ての佐賀県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくりを進める条例」において、インターネットを通じた人権侵害行為の禁止が明記されています。この条例に基づき、県民への誹謗中傷等が行われた場合、必要に応じて県がプロバイダー等に対して削除要請を行う仕組みが整えられています。
- 人権啓発センターさが 総合相談窓口
- ほっとネットライン(佐賀県ITサポートセンター)
県の人権相談窓口に加え、インターネットトラブルに特化した「ほっとネットライン」が案内されています。ネット上の誹謗中傷に対して、ITの専門知識を持った相談員から迅速な助言を受けることができます。
鳥取県
「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」が改正され、全国で初めての強力な独自規定が設けられました。SNSなどのサービス提供事業者への削除要請にとどまらず、差別的な投稿などをした発信者本人に対しても、県が直接「削除命令」を出せるようになっています。命令に従わない場合は、氏名公表や5万円以下の過料が科される仕組みです。
- インターネット人権安心サポートチーム(人権相談窓口)
県庁内に専門のチームが設置されています。投稿等の削除要請や発信者情報開示請求などについて、条例に基づいた具体的なサポートや手続きの支援を行ってくれます。
愛媛県
インターネット上の誹謗中傷に特化した単独の条例はありませんが、県の人権施策推進基本方針などに基づき対策が強化されています。特に昨今のSNS等での誹謗中傷問題を受け、具体的な被害者支援として、特設の弁護士無料相談窓口を新たに設置するなどの対応を行っています。
- 弁護士無料相談窓口(ネット中傷関係)
- 愛媛県人権啓発センター
一般の人権相談とは別に、ネット中傷に特化した弁護士による無料相談窓口(事前予約制)が定期的に開設されています(2025年度時点)。プロバイダー等への削除依頼の方法や、名誉毀損などの法的手続きに関する専門的なアドバイスを無料で受けることができます。
沖縄県
「沖縄県差別のない社会づくり条例」の中で、インターネット上の不当な差別的言動や誹謗中傷の解消を図ることが明記されています。県として、インターネットの適切な利用に関する教育・啓発を行うとともに、相談体制の整備を行うことが責務として定められています。
- 沖縄県人権相談窓口
条例の施行に伴い設置された相談窓口です。インターネット上の不当な差別的言動や誹謗中傷に関する電話・メール相談を受け付けており、内容に応じて法務省の窓口や警察、各種専門機関への案内・連携を行っています。
東京都江戸川区
「江戸川区インターネット健全利用促進条例」が2022年に施行されています。インターネット上での誹謗中傷をなくし、区民が「被害者にも加害者にもならない」ようにするため、正しい理解の促進や被害者の救済措置、相談体制の整備に取り組むことが定められています。
- 大人のなんでも相談 / 区民相談・法律相談
区の総合相談や法律相談窓口を通じて初期の相談を受け付けています。江戸川区では、区の窓口で状況をヒアリングした上で、法務省や総務省(違法・有害情報相談センターなど)、民間の専門相談機関へ適切に紹介・誘導するというハブ機能を持たせた対応を行っています。
埼玉県さいたま市
「さいたま市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援等に関する条例」が2024年に施行されました。誹謗中傷の防止とともに「被害者の支援」に重きを置いており、誰もが加害者にも被害者にもなり得るという観点から、インターネットリテラシーの向上を推進しています。
- さいたま市ネット安心相談(インターネット上の誹謗中傷等に係る相談窓口)
専用の電話・メールフォームによる相談窓口です。被害を受けて悩んでいる人はもちろんのこと、「自らが発信・拡散してしまった情報に不安を抱えている人(行為者)」からの相談も明確に受け付け対象としているのが大きな特徴です。
ただし、こちらの窓口も削除対応等を行ってもらえるわけではありませんので、注意が必要です。
埼玉県戸田市
「戸田市インターネット上の誹謗中傷等の防止に関する条例」が2023年末に制定されました。市民がインターネットリテラシーを向上させ、自らが行為者にならないようにする責務などが盛り込まれており、市として専門の相談窓口を新設するなどの施策を行っています。
- インターネット上の誹謗中傷等専門法律相談
市役所のくらし安心課が窓口となり、月に複数回、専門の法律相談(事前予約制)を実施しています。発信者情報開示請求や損害賠償請求、刑事告訴などの具体的な法的対処について、弁護士に直接相談することができます。
長野市
「長野市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援に関する条例」が2023年に施行されました。匿名性や不特定多数とのつながりから生じる人権侵害を防ぎ、市民が安心で安全な生活を送ることができるよう、市の責務や施策の基本事項が定められています。
- インターネット上の誹謗中傷に関する相談室
市の中央隣保館内に特化した専用相談室が開設されています。電話だけでなく、ネット上のトラブルに合わせ常時受付可能な専用メールアドレスも用意されており、状況に応じて解決に向けた助言や専門機関への橋渡しをしてくれます。
このほかにも、佐賀県唐津市、福岡県小郡市、大阪府和泉市、大阪府富田林市など様々な自治体が独自の取り組みを行っています。
既存の条例の「限界」
全国に広がってはいるものの、実はすでに施行されている条例のほとんどは「理念・啓発型」にとどまっています。削除申請をしてくれたり、訴訟費用の助成などをしてくれるわけではなく、「相談体制の整備(窓口案内やカウンセリング)」「市民へのネットリテラシー教育」「啓発活動」がメインとなっています。
大阪府や兵庫県、鳥取県などの取り組みのように、削除要請まで対応してくれる自治体は極めて少なく、全国の自治体がこれらの自治体のように踏み込んだ条例制定をすることが望まれます。

自治体が削除要請等を行えない場合の対応方法
では、自治体に削除要請等を行ってくれるような制度がない場合には、どのような対策が必要なのでしょうか?
①国や民間団体に依頼する
誹謗中傷やデマの削除要請を行ってくれる機関として代表的なものは以下の2つです。ただし、いずれの機関が削除要請等を行っても、海外企業であるXやYouTubeはなかなか要請に応じないこともあるので、あらかじめ削除されない可能性を念頭に置いておくことをおすすめします。
インターネット人権相談受付窓口
法務省人権擁護局が運営する機関です。メールや電話で相談したあと、実際に削除要請等をしてもらう場合には資料を準備して持っていく必要があります。kannonで誹謗中傷として検知した場合には、誹謗中傷投稿の証拠保全(日時やURLが入ったスクリーンショット)をできる仕様になっておりますので、その機能を利用して資料を準備し、持ち込むことをおすすめします。
なお、この相談窓口に資料を持って行ってから削除要請をしてもらうまでに、早くても1か月程度はかかるため、あらかじめ時間がかかることを念頭においておくと良いでしょう。

誹謗中傷ホットライン
一般社団法人セーファ―インターネット協会という様々なIT系の企業が集まった団体が運営するサービスです。問い合わせフォームから誹謗中傷投稿のURLなどを貼り付けて報告すると、対応可否などをメールで返信してくれます。
数日内にメールの返信があることがほとんどで、削除要請をしてくれるかどうかはケースバイケースですが、法務省人権擁護局のインターネット人権相談受付窓口よりは早いイメージがあります。

②自分で削除要請する
各プラットフォームの窓口などから自分で削除申請することも可能です。利用者の多いプラットフォームでは、情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)に基づいて削除申請窓口が設置されています。
主要プラットフォームの削除申請窓口一覧
| 事業者名 | サービス名 | 削除申請窓口へのリンク |
|---|---|---|
| X Corp. Japan | X(旧Twitter) | 日本の報告窓口・リソース 専用報告フォーム |
| Google LLC | YouTube | YouTube 法的削除リクエスト |
| Meta Platforms, Inc. | Facebook 権利侵害に関する報告フォーム | |
| Instagram / Threads | Instagram 名誉毀損に関する報告フォーム | |
| LINEヤフー株式会社 | LINE(オープンチャット等) Yahoo! JAPAN | 情報流通プラットフォーム対処法に基づく申告フォーム |
| TikTok Pte. Ltd. | TikTok | 情報流通プラットフォーム対処法に基づく対応 |
| 株式会社ドワンゴ | ニコニコ | ニコニコ お問い合わせ・サポート |
| 株式会社サイバーエージェント | Amebaブログ | 権利侵害・ガイドライン違反の報告窓口 |
| 株式会社湘南西武ホーム | 爆サイ.com | 爆サイ 法的対応専用窓口 |
| Pinterest Europe Limited | 情報流通プラットフォーム対処法に基づく申請 |
なお、これらのフォームで削除申請をしたからと言って必ずしも削除されない点には十分注意が必要です。特に海外企業はなかなか削除してくれません。
③弁護士に依頼する
最終手段のひとつです。開示請求などを通して加害者を特定するとともに、プラットフォームからの削除なども提起する手法です。
弁護士に依頼した場合、どんなに安くても30万円程度は覚悟しておいた方がいいでしょう。相場は50万円~120万円ほどだと思われます。
XやYouTubeなどの「対応が芳しくない」と言われる事業者であっても、裁判所の判決には素直に従う傾向にあるため、裁判所で名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害などとして認められるような内容であれば弁護士に相談することもひとつの手段です。
ただし、弁護士に依頼して費用をお支払いしたとしても、削除までに数か月は最低でもかかる点には注意が必要です。
なお、刑事告訴を通じて削除することもひとつの手段ですが、警察も明確な名誉毀損出ない限りはなかなか重い腰を上げてくれないのが現状ですし、何よりも捜査期間に数か月程度かかる可能性が十分にあります。そのため、執拗に粘着されていたり、ストーカーまがいのことをされていない限りは、いったん弁護士相談を最終手段として考えておく方がよいでしょう。